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土屋アンナ
「愛した人を信じきるきよ葉の生き様に共感しまくりだった」
土屋アンナ
原作・安野モヨコ、監督・蜷川実花、音楽・椎名林檎、主演・土屋アンナ。
現代のガールズカルチャーを牽引する女性アーティストたちによる、
女性のための美しい映画『さくらん』が公開される。
主人公を演じる土屋アンナが「共感しまくりでした」と自身の生き様と重ねながら映画の魅力を語った。


きよ葉は自由になれるのか? 『さくらん』に見る女の生き様

土屋アンナ

「私が "自由" を感じるとき? う〜ん…歌ってるときかな」と本誌の撮影終了後、控室に戻った土屋アンナは屈託のない笑顔で答えてくれた。ブロンドに染めたショートヘア、吸い込まれそうな大きな瞳。その存在感は、彼女が演じる映画『さくらん』の遊女・きよ葉が300年後の東京に生まれ変わって姿を現したかのようだった。そして、2日前に熱唱したライブのせいか少し枯れた声で、「でも、ほんとうの自由って、なかなかないんだよね」とつぶやくようにつけ加えた。
『さくらん』は、江戸時代にあった吉原というきらびやかな遊廓の世界で、後に花魁・日暮となるきよ葉が、女としての自由を獲得するまでの激しくも切ない生き様を描いた恋愛物語であるが、さて、吉原や花魁について知っている若者はどれほどいるだろうか?
 吉原は、現代に例えると銀座や赤坂、新宿歌舞伎町の高級クラブと、京都祇園のお茶屋を足して割ったような“郭”と呼ばれる店が軒を連ね、そこで遊女たちが金持ちの商家の旦那や大名を相手に芸を披露し、遊び興じる歓楽街だ。しかし吉原は単なる風俗街ではなく、しきたりやマナーを重んじる幕府公認の文化的社交場であり、文芸、音楽、絵画やファッションなど江戸町人文化を発信する最先端の街だったのである。そんな吉原のトップに君臨する最高の遊女が花魁なのだ。だからこそ花魁は吉原に通う江戸っ子たちの憧れの的だった。
「きよ葉が生きた吉原という世界も現代の私たちが生きている世界も、ある意味、同じようなもの。きよ葉は8歳のときに吉原に連れて来られて以来、大門(吉原の出入口となる唯一の門)から一歩も外へ出られない生活を強いられることになる。一方、私たちだって学校とか職場とか、あるいは常識や既成概念というような檻の中で、自由を手に入れようと頑張って生きている。そう考えれば、すんなりときよ葉を演じることができましたね」
 きよ葉は吉原の厳しい習慣に馴染めず、脱走を企て、いじめや折檻を受けるが、しだいに自分の運命を知り、吉原から出るには花魁になって旦那に身請けしてもらうしかないと覚悟を決める。粧ひ(菅野美穂)、高尾(木村佳乃)という過去の花魁がそうであったように、自分も遊女としての手練手管や教養を身につけ、世の男どもを翻弄する高貴な遊女になろうと決意し、変貌をとげていくのである。
 やがてきよ葉は玉菊屋で一番の遊女となるが、純粋な心は失ってはいなかった。それは、信じる心だ。間夫(遊女が本当に思いを寄せる男)である惣次郎(成宮寛貴)に一途な思いを寄せ、激しく愛するきよ葉。稲荷神社の境内の“咲かない桜”が咲いたら吉原から出てやると、いつかきっと桜が花開くことを信じるきよ葉。そんなきよ葉に、「共感しまくりでした」と笑みを浮かべる土屋アンナ。
「私自身が生きていくうえでいちばん大切にしているのは、人を信じる心。誰かを信じきることって本当はできないことなのかもしれないけれど、好きになるとどうしても信じちゃう。信じるからこそ、相手に自分のすべてをさらけ出せるし。たとえ裏切られてもね。人生はその繰り返しですよ」



絢爛豪華な吉原へようこそ。見どころは、「金魚、かな?」


土屋アンナ

きよ葉の生き様を自身と重ね合わせながら彼女はつづける。
「きよ葉は花魁になるために強がって生きているけど、本当は弱い女。でも、弱い部分は絶対人には見せない。それって今の女性にも当てはまる部分だと思うんです。私だってそう。こんな格好して意気がってるけど、けっこう可愛いところもあるんですよ(笑)。でも人前では見せない。…なんでだろう? やっぱり強がっているのかな」
 そういう裏の顔というか、自分でも知らなかった新しい自分が映画や音楽を通じてふと顔を出すことがある、と彼女はいう。今回の『さくらん』で顔を出した土屋アンナは…。
「日本的な“静”の部分ですね。例えば撮影中、思いきり顔を崩して演技したりすると監督が、『アンナ、違う。抑えて抑えて』って。彼女は『下妻物語』のいちごを撮りたかったのではなくて、大人しくて、つつましくて、という昔の日本女性が持っていた“女らしさ”をベースにしようとしていたのです。だから私もできるだけ静かな演技を心がけました。そしたら、『私ってこういうところもあるんだ』と、今までにないアンナを発見できて」
 その、静かな演技を象徴するのがきよ葉の目だ。さげすむ目、媚びる目、だまそうとしている目…体の動きを抑えつつ見せる多彩な目の表情によって、きよ葉の内に秘めたる感情を露出し、物語の展開を暗示していく。
 もうひとつの見どころは、スクリーンの美しさ。目もくらむほど色鮮やかな襖、障子、ファッションショーを見ているかのような花魁の衣装、斬新な劇中花、そしてスピード感あふれる音楽。蜷川実花監督が魅せる吉原の世界はとにかくド派手だ。もちろん実際の吉原はここまでゴージャスな装飾を施してはいなかったろうが、それは監督をはじめ、原作、脚本、音楽、そして美術や衣装まで、主要なスタッフをすべて女性が担ったガールズパワーがなせた技。近ごろ女性監督の台頭が著しいが、ここまでパワフルな女性作品は他にない。まさに、女の世界を、女が描いた、女のための映画なのだ。
 その結果、『さくらん』は土屋アンナをはじめとする女優陣をモデルにして蜷川実花が撮り下ろした1冊の華麗な写真集のように仕上がった。ワンシーンごとに、ページをめくるかのような高揚と緊張に満ちあふれている。
 映像の中で最も綺麗で印象的だったワンシーンは「金魚…かな?」と土屋アンナは笑った。一瞬、肩透かしをくらった感はあったが、その答えの理由をよく考えてみると、たびたび登場する金魚も桜も実は原作にはないアイテムで、しかし映画では重要なシンボルとして扱われているもの。「金魚はびいどろの中でしか生きられない。川へ戻ると三代でフナになる」と花魁の粧ひがきよ葉をからかう場面があるが、蜷川監督は花魁というものを表現するのに最もふさわしいメタファーとして金魚を採用しているのだ。つまり、彼女が「金魚」と答えたのは、目に映える華やかな場面以上に、花魁・きよ葉(日暮)の女の生き様としての美しさを見てほしいとメッセージしたかったからに違いない。



「渋谷は、元気で面白い街」 澄海君の服を買って公園へ

待望の映画『さくらん』は、渋谷パルコパート3のシネクイントをはじめとした劇場で2月24日(土)より公開される。土屋アンナにとってその渋谷は「活気があって、騒がしくて、面白い街。自由を求める人たちの癒しの場になっている感じ」なのだそう。パルコにもときどき立ち寄り、家具や雑貨、そしてお気に入りのヒステリックグラマーのキッズアイテム(現在は販売していない)を買ったりしていたと。子供服を着るのはもちろん、渋谷からお気に入りの代々木公園へ一緒に出かけるのは、長男の澄海君だ。
「もう2歳になりました。やんちゃ坊主ですよ」と、澄海君の話題になると頬をゆるめるアンナさん。「去年のクリスマスに澄海に内緒で部屋にツリーを飾ってあげたの。そしたら仕事に行った後で“ありがとう”ってメールが届いたんだけど、添えてある写真がなぜかアッカンベー。なんで?(笑)」
 最後に、子供と一緒にいる時間に自由を感じないかと尋ねると、彼女はニコリ。
「澄海がどこかに頭をぶつけないかなとか常に気を配っているので自由だとは感じないですね。逆に、澄海が自由になれるように見守る立場だから」
 女優として、ミュージシャンとして、モデルとして、そしてママとして。愛するものを信じ、自由を求めて走りつづける土屋アンナの生き様は、同世代の女性たちから圧倒的な支持を得ながら、きよ葉のごとく、男性たちからも熱い視線を注がれている。

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写真=松岡茂樹 取材・文=松井健太郎 スタイリスト=坂崎タケシ ヘアメイク=FEMME Michou.
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